2018年5月23日水曜日

能面の眼と表情


能面は人間の顔より、抽象化され強調化されている。
和辻哲郎は、「面とペルソナ」で、「能面は実際に生きている人間の顔面よりも幾倍か強く生きてくるのである。舞台で動く伎能面の側に自然のままの人の顔を見出すならば、その自然の顔がいかに貧弱な、みすぼらしい、生気のないものであるかと痛切に感じざるを得ないであろう。」と述べている。
寺田寅彦も、能や人形浄瑠璃を見たときの感想を「生ける人形」で書いている。科学者らしく、観客と舞台の距離を考慮した抽象化や強調化が必要だろうと述べている。
彼は、「相撲と力学」では、相撲も力学の広い縄張りにいれて、「複雑な梃子の組み合わせで、四十八手の力学の分析を、学者によって明らかにしたいものだ。」と述べているが、その後相撲の解析記事はみあたらず、さらに能面の芸術の分野までは深入りしていない。

以前、能面の角度によって表情が変わることを、写真撮影で比較したことがあったが、ここでは寅彦流に、能面の眼の動きと人間が感じる眼の形を、少し科学的に分析してみる。

ある平面上の図形を、他の平面上の上に移しかえるのに、等角写像法という技術があり、流体力学で、飛行機の翼断面などの設計に使われている。理論の詳細は省略する。

図の基本円を能面の丸い目とし、人間が見る等角写像図をえがくと、動きによって変わる拡大率によって写像図は円になったり、直線になったりする。下図はその中間の例である。

上に示した各種の事例の図は、もと同僚の柳井田教授の発表図から引用している。

芸術家は、このような幾何学的な原理を理解していたのではないけれど、経験的に眼の形と動きの組み合わせによって、いろいろな表情を見せることを、体得していたのであろう。

世界には多数の表情の面が存在するが、日本の面は抽象化されたものが主で、動きを意識してつくられたようだ。




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