京都市南区、桂川にほど近い工業エリアの一角に、平安時代から1200年続く傳來工房があります。平安時代は京都に都がおかれ、遣唐使によって大陸からさまざまな文化や技術が日本に伝わった頃で、まさにその遣唐使の一員であったのが、真言宗の開祖として知られる弘法大師(空海)であり、西暦805年に弘法大師によって密教とともに持ち込まれたのが仏像や仏具などの青銅鋳物、すなわち当時最先端の蝋型鋳造法でした。
その高度な技術を会得した優れた職人「御鋳物師」たちにより発足したのが、鋳造技術集団「傳來」です。
なかでも最高の技量の持ち主であると認められた一番弟子によって「傳來」の銘は受け継がれ、それが今日の「傳來工房」の礎となっています。
1200年の長きにわたり研鑽を積み重ねてきた「伝来型」という仏具の形式名は、“大陸風の古典的な様式”を指す言葉であり、銅器の本流を受け継いできた「傳來」と語源を同じくするものです。
鋳造技術は時を経て、意匠の変化や様々な技術的分流を生み出してきました。そんななか、傳來工房では長年培った蝋型から、その後鋳造の技術をもとに建築分野へ進出し、材料に新たにアルミを用いることで軽量化や自由な加工性を実現し、皇居、官庁、文教施設などの意匠金属工事のほか、重要文化財の復元工事なども数多く手掛けてきました。
さらに近代的な機械部品の鋳造や現代的な美術工芸品や建築金物の製造へと進出し、昭和47年には建築物の大型キャスト製品の受注生産に対応するため、新鋳造技術・Vプロセスの設備を業界でいち早く導入しました。
国内屈指の規模を誇るこのVプロセスラインにより、これまで蝋型鋳造で培ってきた原型技術・木型技術を近代建築の場で生かすことが可能になり、村野藤吾、岡田新一、黒川紀章ら著名建築家をはじめ、彫刻家、デザイナーらのイメージを忠実にかたちにするVプロセスの登場は、まさに美術としての鋳物が私たちの手に届く素材になった証でもあります。
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