[業の花びら] 宮澤 賢治
夜の湿気と風がさびしくいりまじり
松とやなぎの林はくろく
そらには暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
〔山地の神々を舞台の上にうつしたために〕
はげしく寒くふるへてゐる
ああ誰か来てわたくしに云へ
億の巨匠カミ並んで生まれ
しかも互ひに相犯さない
明るい世界はかならず来ると
しかもいったい
たれがわたくしにあてにならうか
どんなことが起らうと
わたくしはだまってひとり行くだけだ
…… 唐ュでさぎが鳴いてゐる 夜どほし赤い眼を燃して
つめたい沼に立ち通すのか……
(祀られざるも 神には神の身土がある)
松並木から雫が降り
そらのはるかな高みでは
風もごうごう吹いてゐて
わつかのさびしい星群が
雲から洗ひ出されては
その偶然な二っつが
黄いうな芒で結んだり
残りの巨きな草穂の影が
ぼんやり雲にうつったりする
岩手県花巻市出身の詩人・童話作家の宮沢賢治。死後3年後(昭和11年)、賢治を記念する詩碑が建てられた。
石碑の詩は雨にもまけず |
碑文は、有名な賢治の代表作「雨ニモマケズ」だが、詩を選ぶにあたって関係者が協議した際、最初に賢治の父親が提案したのは「雨ニモマケズ」ではなく、「業の花びら」という詩だったという。
父・政次郎は、なぜ数ある賢治の作品の中から詩「業の花びら」を、賢治の詩碑に相応しいと考えたのか?
父と子にとって“業”は、どういう意味を持っていたのだろうか。
賢治に関する著書もあるディレクター今野勉が、その謎を追う。
2018年に放送し、話題になった4K放送特番「映像詩 宮沢賢治 銀河への旅〜慟哭の愛と祈り〜」の内容を踏まえ、新たに、今まで様々な推測がなされてきた「父親との関係」「父子二人だけの関西旅行」を検証、“業”をテーマにした詩「業の花びら」や童話「二十六夜」の真実を解き明かす番組であった。
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