「電力王」と謳われた実業家にして、「耳庵」と号する茶人としても高名であった松永安左エ門(号:耳庵)。
松永安左エ門氏(まつながやすざえもん、1875~1971)は、長崎県壱岐に生まれ、慶応義塾に学んだのち、九州電灯鉄道・東邦電力等を率いて、戦前戦後を通じて電力界の重鎮として活躍されました。氏が茶の湯を始めたのは還暦を迎えてからで、『論語』の「六十にして耳順(したが)う」にちなんで耳庵(じあん)という号を名乗るようになります。埼玉県柳瀬村(現所沢市)に山荘「柳瀬荘」を営んで、益田鈍翁(ますだどんのう、1848~1938)や、原三渓(はらさんけい、1868~ 1939)といった我が国の近代茶の湯の主導者たちと広く交流をもち、古美術品の蒐集においても強く影響を受けました。当時の数寄者たちは、蒐集した美術品を茶席へ惜しみなく用いて取り合わせを楽しむ茶の湯を展開し、耳庵氏もまた、古くからの概念にとらわれない、自由で豪快な茶の湯スタイルを受け継いでいきました。
東京国立博物館蔵の「松永コレクション」は、第二次世界大戦前に氏が蒐集し、昭和22年(1947)に氏のご意志によってご寄贈いただいたものです。今回の特集陳列では、蒐集家としての名を一躍有名にするきっかけとなった≪文琳茶入 銘 宇治≫(ぶんりんちゃいれ めい うじ)をはじめ、先達・鈍翁に競り勝って手に入れた≪大井戸茶碗 有楽井戸≫(おおいどちゃわん うらくいど)など、松永コレクションを代表する茶道具を一堂に会し展示しています。氏が茶の湯を通じて蒐集、愛好した名品の数々をご堪能ください。
重要美術品 大井戸茶碗 有楽井戸 朝鮮 朝鮮時代・16世紀 松永安左エ門氏寄贈 |
氏が収集した古美術コレクション(松永コレクション)は屈指の日本・東洋美術コレクションとして知られ、氏の没後に戦後のものは福岡市美術館へ寄贈されました。
1階の松永記念館室はその専用の展示室で、毎年春と秋には名品展を開催している。今年の秋の名品展も粒ぞろいで11月21日まで。
松永本人も、達筆家で、多くの書をのこしている。右の写真は九電にて揮毫中の松永氏とその書。
私も、九州の電気技術者として松永氏の存在をよく知っており、大学の同窓会を松永氏の別荘であった唐津の九電保養所で行ったことがあります。
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